近年、日本の多くの企業が技能実習生を受け入れ、国際協力の一環として人材育成に取り組んでいます。しかし、技能実習制度を適正に運用するためには、給与に関する適切な理解と管理が不可欠です。本コラムでは、技能実習生の給与に関する基本知識、適正な運用のポイント、そして実習実施者として注意すべき点について解説します。
1. 技能実習生の給与の基本
① 最低賃金の遵守
技能実習生の給与は、受入企業の所在地における最低賃金以上でなければなりません。最低賃金は都道府県ごとに異なり、毎年改定されるため、最新の情報を確認することが重要です。
▶ 最低賃金の確認方法:厚生労働省のウェブサイトや都道府県の労働局で最新情報を確認できます。
② 労働時間と割増賃金
技能実習生も労働基準法に基づき、1日8時間・週40時間を超える労働には時間外手当(割増賃金)が発生します。
- 時間外労働(法定労働時間超過):25%以上の割増
- 深夜労働(22時~翌5時):25%以上の割増
- 休日労働(法定休日の労働):35%以上の割増
違反が発覚すると企業に対する指導・罰則が科される可能性があるため、適正な労働管理が求められます。
③ 控除項目の適正管理
給与から控除できる項目には以下のようなものがあります。
- 社会保険料(健康保険・厚生年金・雇用保険):日本で働くすべての労働者が加入する必要があります。
- 所得税・住民税:課税対象となる場合、適切に源泉徴収を行う必要があります。
- 寮費・光熱費:合理的な範囲内での控除が可能ですが、技能実習生と事前に書面で合意を取ることが必要です。
2. 不適切な給与管理のリスク
技能実習生の給与に関する問題は、企業の信用や事業運営にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
① 最低賃金以下の給与設定
「技能実習だから」という理由で最低賃金を下回る給与を支払うことは法律違反です。発覚した場合、監督機関からの指導・是正勧告の対象となり、最悪の場合は受入れ停止や事業許可の取り消しにもつながります。
② 過剰な控除
技能実習生に対し、不適切な控除を行う事例も問題視されています。例えば、寮費や光熱費を実際の費用を大幅に上回る金額で控除する行為は「不当な搾取」と見なされる可能性があります。適正な金額を設定し、必ず事前に合意を得ることが重要です。
③ 時間外手当の未払い
残業代の未払いは、多くの企業で問題となっています。特に「固定残業代を含む」という名目で適正な支払いが行われていないケースは、労働基準監督署の指導対象となるため注意が必要です。
3. 実習実施者が取るべき適正な対応
① 給与体系を明確にし、適正な支払いを行う
技能実習生の給与は、以下のポイントを押さえて管理しましょう。
✅ 最低賃金以上を確保する
✅ 労働時間を適正に管理し、時間外手当を正しく支払う
✅ 給与明細を発行し、透明性を確保する
給与明細には基本給・控除項目・支給額を明記し、技能実習生が内容を理解できるように説明することが大切です。
② 事前に契約内容を明確にする
技能実習生との契約時に、給与に関するルールを明確にし、書面で合意を取ることが重要です。これにより、後々のトラブルを防ぐことができます。
③ 監査や相談窓口の活用
適正な給与管理ができているか定期的にチェックし、不安な点があれば、監理団体や労働基準監督署に相談することをおすすめします。トラブルを未然に防ぐためにも、社内の労務管理を見直しましょう。
4. まとめ:適正な給与管理が企業の信頼につながる
技能実習生の給与管理は、単なる労務の問題ではなく、企業の信頼を左右する重要な要素です。不適切な運用を行えば、行政指導の対象となるだけでなく、企業の評判にも悪影響を及ぼします。
💡 適正な給与管理を行うために
✔ 最低賃金・労働時間のルールを守る
✔ 給与控除は合理的な範囲で行う
✔ 給与明細を発行し、透明性を確保する
✔ 契約内容を事前に明確にし、トラブルを防ぐ
技能実習生の受け入れは、日本企業にとって国際的な人材育成の機会であり、適正な運用が求められます。給与に関する適切な理解を深め、公正な制度運用を実施することで、技能実習制度の本来の目的を果たしていきましょう。