こんにちは。大江です。
今回は、なぜ建設関係での失踪率が高いのか、そもそもなぜ失踪するのか、失踪して何をしているかなど、失踪の背景についてコラムにしていこうと思います。
建設関係はなぜ失踪しやすいのか?
上記表は、2,870名を対象に、なぜ失踪をしたのかを聴取した結果となります。
7割弱が低賃金を理由に失踪している事がわかります。
建設業といえば、きつい・汚い・危険のいわゆる「3K労働」にあてはまる職種が多く、上記表の、「低賃金」「指導が厳しい」「労働時間が長い」「暴力を受けた」にも該当しがちと感じます。
また、屋外での作業も多く、夏は暑く、冬は寒い。雨の日には作業ができない事も多く、給与に影響が出てしまう。
機械や工具を取り扱う職種は、危険と隣り合わせで事故を起こさないように常に気を張った状態。
そして親方や先輩方から、時には叱責まじりの指導を受けながらも、一日でも早く現場での戦力になることを求められます。
建設業界で働いている方たちからすると、それが普通で職人の世界では当たり前という感覚だと思います。
かく言う私も、長期間建設業に携わっていた時期があり、それが当たり前になっていて、そんな業界が好きでもいました。
ですが、技能実習生はというと、おぼつかない日本語能力と、新天地での慣れない生活、文化の違いなどを抱え、職場でも思うようにいかないとなると相当のストレスになると思います。
日本人でも、過酷な労働や精神的に辛い人間関係を強いられるような職場環境では、仕事を続ける事ができなくなり、出社拒否や退職といったことが普通に起こりえます。
受入企業は、外国人技能実習生を受け入れるにあたり、採用・労務・人事面で、日本人以上に慎重な準備や対応が求められると思います。
建設関係は低賃金?
前回のコラムで書いた通り、失踪者の約半数が建設関係であり、先ほどの表では失踪動機の約7割を「低賃金」が占めていました。
建設関係に多いのが、野外の力仕事で大変なうえに、拘束時間が長いというのが特徴だと思います。
基本的に給与が発生するのが、現場で作業する8時~17時までの間となるのですが、朝、事務所または倉庫に集合し、必要な道具や資材を積み、遠ければ現場まで数時間かけて行く。8時~17時まで現場で作業し、それから事務所まで帰る。帰ったら後片付けをしてようやく帰宅する。というのが日常的に行われているのが実情です。
近隣との協定で18時以降は音を出せなかったり(建築現場ごとに異なる)、暗くなれば作業ができないなどの理由で残業もできない。
更には、雨の日は作業ができないから休みになる(現在は、天気で給料が左右されないように月給制のみ認められている)。
このように拘束時間が長く、休みが多い時期があったり、残業もできないとなると、自分が思い描いていたように稼げず実質的に低賃金と感じているのだと思います。
また、失踪者の調査では労働時間が短ければ短いほど失踪者が多いようです。
日本人の感覚なら、失踪者を生み出すような実習先なのだから長時間労働がはびこっているのだろう。と思いがちですが、
実習生の感覚は真逆で、残業が多く出張も多いような職場が「当たり」とされています。
先程お話した一般的にイメージされる「劣悪な労働環境」だけでなく、「思うように稼げない」状況も失踪の原因に大きく影響していると言われています。
失踪のボーダーライン
日本に来る実習生の多くが50万円~100万円程の借金をしてでも来日します。
このように多額の借金を背負ってでも来日する実習生たちですが、満足な給料を得られず返済ができない、または返済に時間がかかるとなれば、たちまち失踪のリスクが高くなるようです。
また失踪ラインにはボーダーがあり借金約80万円を超えると失踪リスクが高まります。
この額には根拠があり、実習生が1年間働いても、返しきれない額の目安です。
最低賃金水準の賃金でも、実習生は少なくとも月6~8万円程度を貯金していると言われています。
最初の一カ月は入国後の講習となり、実際に働けるのは11カ月です。
毎月7万円を貯金したとして、1年間では77万円。
これが1年で返しきれる上限となります。
とある監理団体の話によると、 「1年経っても借金が返せないとなると、プレッシャーが大きくなります。正直、実習先によって待遇は大きく変わります。残業も多く、毎月15万円以上を送金する実習生もいます。家族や友人に『なぜ、あなたは少ししかお金を送れない』などと言われると、大きなプレッシャーになっていくのです」
転職できない事が失踪を後押しする
外国人技能実習生は、母国の発展のために知識と技能を習得するという目的で来日しているため、転職の権利がない。
また、自分の自由な時間を使ってアルバイトをすることも資格外活動となる為、許されない。
許されるのは、受け入れ企業が作成、外国人技能実習機構が認定した「技能実習計画」で認定した実習先での作業のみです。
ただし、受け入れ企業側の問題で実習の継続が困難となり、なおかつ実習生が技能実習の継続を希望する場合は、ほかの企業に「転籍」をして実習を継続することはできます。
監理団体、元の受け入れ企業は「引き続き技能実習を行うことを希望するものが技能実習を行うことができるよう、他の実習実施者又は監理団体その他関係者との連絡調整その他の必要な措置を講じなければならない」(技能実習法51条)とされています。
転籍という方法もあるのはありますが、実際、実習生が継続できる職種、および作業が決まっているため、転籍先を探すのも困難です。
実習生自身が違った職種にチャレンジしたいと思っても、叶いません。
SNSサイトが失踪をバックアップ
失踪をして一体どこで何をしているのか?
某SNSサイトには、地域別にグループがあり、失踪者向けの仕事の情報や、偽造の在留カードの作成を請け負う業者の情報などが見る事ができるようです。
希望の仕事があれば、ブローカーに連絡し、偽造在留カードの作成を指示され、SNSサイトで偽造在留カードを請け負う業者へ依頼する。
その際作成するのが「定住者」の在留カードです。
「定住者」の在留カードがあれば基本的にどのような仕事にも就くことができるからです。
偽造在留カードの作成費用は2万円程のようで、後は雇ってくれる会社に繋ぎ、ブローカーに紹介料を支払うような流れのようです。
さいごに
興味深い調査結果があったので紹介します。
技能実習時の手取り給与と失踪後の手取り給与額を比較できた77人の調査結果(失踪後の就労状況に関する調査)があり、失踪後の給与額の平均額は技能実習時代より約5万8000円高いようです。
まっとうに働いている技能実習生が大半ではありますが、このような情報が海外でも流れているとなると、初めから失踪するつもりで来日する実習生もいると思います。
現に、就労開始から1週間で出社拒否する方もいると聞きます。
先述した実習生の感覚でいうと、借金をしてでも日本に稼ぎに来ているのにすぐに出社しなくなるというのはあまりに不自然です。
技能実習制度自体は終了することが決定していますが、新たな「育成就労」制度でも同じような事にならないよう、国や受け入れ企業、実習生も新たな制度をしっかりと理解し、失踪や違法行為に手を染めなくていいように、お互いに利益をもたらせるよう努めなくてはいけないと感じました。